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福岡高等裁判所 平成5年(ネ)955号 判決

主文

一  原判決主文第一項及び第二項(更正決定により追加されたもの)を次のとおり変更する。

被控訴人は、控訴人に対し、一八万一七六二円及び内金八万七七四五円に対する平成二年一一月一三日から、内金九万〇〇八三円に対する同年一二月一一日から、内金一九六七円に対する平成三年一月一一日から、内金一九六七円に対する同年二月一三日から、それぞれ支払済みの前日に至るまで年一四・五パーセントの割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを五分し、その一を被控訴人の負担とし、その余は控訴人の負担とする。

三  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

理由

【事実及び理由】

第一  当事者の求める裁判

一  控訴人

1 主文第一項(当審において請求の減縮がされた。)及び同第二項と同旨。

2 主文第一項につき仮執行の宣言。

二  被控訴人

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  事案の概要

一  本訴の概略

控訴人は、被控訴人に対し、主位的に、控訴人と被控訴人との間で締結された加入電話契約に基づき、別表三記載のとおりの平成二年一〇月分から翌平成三年一月分までの通話料(この中には、有料情報サービスいわゆるダイヤルQ2を利用したことによるダイヤル通話料が含まれる。以下、この有料情報サービスをダイヤルQ2ともいう。)等の各料金(消費税を含む。)並びにこれらに対する約定の各支払期日の翌日から支払日の前日まで年一四・五パーセントの割合による約定遅延損害金の支払を求め、予備的に、右加入電話契約上の被控訴人の管理義務不履行に基づき、右の各料金合計額相当の損害賠償金の支払を求めている。

ところで、控訴人は、本訴において、当初、別表一の一・通話料金目録記載の料金(以下別表一の一は省略。なおその内訳は、別表一の二・電信電話料金内訳--以下「別表一の二」と略称する--記載のとおりである。)等の支払を求めていたが、この中には別表一の二から明らかなようにダイヤルQ2利用にかかる通話料金はもとより、ダイヤルQ2利用による情報提供者の情報料も含まれていた。その後、控訴人は、原審において、右請求のうち情報料にかかる部分の請求(別表一の二の「情報料<1>」、「情報料<2>」、「消費税相当額Q2情報料」の金額)を放棄し、別表二・前回の分計後の請求内訳(以下「別表二」と略称する。)記載の各料金等の支払を求める旨、請求を減縮した。しかし、原審は、この減縮した控訴人の請求について、ダイヤルQ2利用にかかる通話料金等(別表二記載の「ダイヤルQ2の通話料(判明分)」、「ダイヤルQ2の通話料(分計分)」、「消費税相当額Q2分」の金額)の請求を棄却し、その余を認容するにとどまった。そこで控訴人は、これを不服として控訴したが、当審において、右の棄却された請求部分につき更に請求を減縮し、結局、別表三・今回の分計後の請求内訳(以下「別表三」と略称する。)記載のとおりの各料金等の支払を求めることとなり、右の減縮にかかる部分の請求を放棄した。そして、控訴人は、当審において、加入電話契約上の被控訴人の管理義務不履行に基づく損害賠償請求を予備的に追加した。

被控訴人は、控訴人の請求について、ダイヤルQ2利用にかかる通話料金は、被控訴人の弟である乙山春夫(以下「春夫」という。)が被控訴人に無断で被控訴人の加入電話を介してダイヤルQ2による情報提供を受けたことによるものであって、このような場合、被控訴人には右の情報料はもとよりダイヤルQ2利用にかかる通話料金の支払義務も発生しないし、加入電話契約上の管理義務の不履行もないなどと主張して、控訴人の請求の一部を争っている。

二  事実経過

本件の事実経過は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決二枚目裏一行目から同四枚目表三行目までの記載(原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」の「一 本件の事実経過」)のとおりである(なお、原判決二枚目裏一〇行目の「別紙料金目録」は本判決添付の通話料金目録と、同三枚目表三行目の「別紙電信電話料金内訳表」は本判決添付の別表一の二と、それぞれ同一である。)から、これを引用する。

1 原判決二枚目裏二行目の「電話加入契約」を「加入電話契約」と改める。

2 同三枚目表一〇行目と同一一行目の間に次のとおり加える。

「ところで、控訴人は、本訴において、当初、右のような料金の内訳を示すことなく、前記の、先に訴訟外で請求したのと同じように通話料金目録記載の各料金をそのまま電話料金として支払うよう請求したが、その後、原審において、右の各料金の内訳を別表一の二記載のとおり明らかにしたうえ、ダイヤルQ2利用による情報料(別表一の二に「情報料<1>」、「情報料<2>」と記載のもの)及びこれについての消費税相当額(別表一の二に「消費税相当額Q2情報料」と記載のもの)の請求を放棄し、別表二記載の限度で支払を求める旨、請求を減縮した。そして、控訴人は、当審において、別表二に記載の「ダイヤルQ2の通話料(分計分)」(別表一の二の「通話料<2>」に該当する。)について、その請求の一部を放棄して、その限りで更に請求を減縮した。このような経緯によって、控訴人が本訴において請求する料金等の金額は、別表三記載のとおりに落ち着いたが、このように当審においてダイヤルQ2利用による通話料金の一部を放棄したのは、従前の実績に基づく推計によるとき、別表二記載の「ダイヤルQ2の通話料(分計分)」の中にダイヤルQ2利用にかかる情報料が部分的であるにしても混入している可能性を拭い去ることができないため、「合成秒数」の考え方を採用して理論的にこの可能性を拭い去った結果、別表三記載の「ダイヤルQ2の通話料(分計分)」の数値が得られたからである(甲一四、六三、当審証人田中範、弁論の全趣旨)。」

3 同三枚目表末行の「電話加入契約」を「加入電話契約」と改める。

三  争点

1 被控訴人は、契約約款一一八条に基づき、弟の春夫が無断で本件加入電話を介してダイヤルQ2を利用したことによる通話料金の支払義務があるか。

2 控訴人が右の通話料金の支払を請求することは、信義則に反しないか。

四  控訴人の、争点についての主張

1 契約約款一一八条に基づくダイヤルQ2利用にかかる通話料金の支払義務について

(一) 本訴請求のうち別表三記載の通話料金に関する支払請求は、契約約款一一八条に基づくものである。

およそ通話料金の支払義務については、契約約款一一八条によってすべて一律に決せられることになっているところ、これによれば、加入電話契約者回線から行った通話は、それが当該契約者以外の者が行った通話であっても、その通話料金を契約者が支払うものとされている。これは、電気通信事業の公共性に鑑み、通話料金の支払義務者を画一的、一義的に定めて定型的に処理することにより通話料金の徴収事務の経費を最小限に抑え、低廉で合理的な料金で広く電気通信役務を提供する趣旨に出たことである。したがって、契約者回線の使用が、その契約者以外の第三者によってなされたときでも、それについての契約者の承諾の有無を問わず、契約者がその通話料金の支払義務を負い、また、一般に通話料金の支払義務は、電気通信事業法、同法施行規則、契約約款に定められた場合に該当しない限り減免されないことに鑑みると、その通話の態様や内容、通話料金の多寡とは無関係に、契約者がその通話料金の支払義務を負うというべきである。

(二) ところで、右にいう通話とは、概ね三キロヘルツの帯域の音声その他の音響を電気通信回線を通じて送り、又は受ける通信のことを指す(契約約款三条)が、これには、一般通話をはじめとする八種類の通話があり、更にこれらはダイヤル通話、手動通話等に区別されている(契約約款九四条二項)。

(三) 以上を本件の、被控訴人の弟である春夫のダイヤルQ2利用による通話についてみると、その態様は、後記のダイヤルQ2の利用方法に照らせば、契約者ではない第三者が無断で契約者回線から行った一般通話で、ダイヤル通話にほかならない。

仮に、春夫の右通話を一般通話と異なる「通話以外の通信」であると解し得る余地があるとしても、「通話以外の通信」も「通話」とみなされる(契約約款四条)から、いずれにしても春夫の右の通話が一般通話であることには変わりがない。

そうすると、被控訴人は、春夫の右通話による通話料金の支払義務を免れない。そして、本訴請求にかかる春夫のダイヤルQ2利用による通話料金は、「合成秒数」の考え方を採用して、理論上、これに情報料がまったく混入せず、かつ、被控訴人にとって最も有利となる算出結果によっている。

2 ダイヤルQ2の仕組みについて

(一) 控訴人のダイヤルQ2制度は、昭和六〇年四月に電気通信事業が自由化され、固有の電気通信設備を有しない事業者も電気通信事業法にいう控訴人ら第一種電気通信事業者の設備を利用して第二種電気通信事業者として通信サービスを営むことが法的に認められたことに伴い、控訴人の料金の課金や料金回収システムを新たに他の電気通信事業者に開放し、効率的な料金回収システムを持たない情報提供者が情報提供をしやすくして、利用者に多種多様な情報を提供することを目的として創設されたものである。

すなわち、このダイヤルQ2制度においては、電話回線を所有する控訴人をはじめ、情報提供者、加入電話契約者、情報提供を受ける利用者の四者が登場するが、このうち加入電話契約者と利用者とが同一人である場合もある。まず、控訴人と加入電話契約者との間には、加入電話契約が締結されて契約約款が適用され、ダイヤル通話料は控訴人所有の電気通信施設使用の対価とされる。情報提供者と利用者との間には、情報提供者が控訴人所有の電話回線を通して有償で情報を提供するのを利用者が受け取るという無名契約が締結され、利用者が情報提供者に支払う情報料は情報の提供を受けたことへの対価となる。また、控訴人と情報提供者との間には、情報料回収委任契約が締結され、これに基づく取立代理権に基づき控訴人において情報利用者と加入電話契約者とが同一人のときにこの者から情報料を取り立てる一方、情報提供者は控訴人に所定の経費、手数料を支払うことになる。

そして、実際にダイヤルQ2を利用するには、利用者が特定の加入電話契約者の特定の電話番号の電話機から特定の情報提供者の特定の電話番号に架電する方法による。利用者が架電すると「このサービスは、情報料と通話料合わせ〇〇秒毎に〇〇円の料金がかかります。」という音声による案内があり、利用者がこれを聞いて切らずにそのままいると続いて情報が提供されるのである。

(二) ところで、ダイヤルQ2における控訴人の業務は、前記のように、控訴人が情報提供者から委託を受けてその加入電話契約者に対する情報料債権の回収を代行するもの、つまり情報料の回収代行サービスというべきものである。したがって、このサービスは、日本電信電話株式会社法一条一項にいう控訴人の本来の事業である電気通信事業、すなわち電気通信事業法二条において定義されるところの電気通信業務には該当しない。そして、電気通信事業法上認可を要するとされているのは、同法三一条にいう控訴人と加入電話契約者との間の契約約款であって控訴人の事業ではなく、それも控訴人の電気通信役務に関する料金その他の提供条件についての契約約款である。そうすると、控訴人の前記の情報料の回収代行サービスが認可を要する事業であるという根拠はなく、したがってまた、別紙に抜粋を掲げた契約約款の一六二条ないし一六四条の定めも、控訴人と加入電話契約者との間において、「情報料の回収代行を行うことの承諾」、「回収の方法」、「情報内容等についての免責」を定めたもので、電気通信事業法三一条所定の控訴人の電気通信役務に関する料金その他の提供条件について定めたものではないから、契約約款一六二条ないし一六四条について認可は不要である。このように、控訴人のダイヤルQ2に関する事業が無認可事業で違法であるとされる理由はなく、ダイヤルQ2に関する契約約款一六二条ないし一六四条も認可は不要である。

(三) しかし、控訴人のダイヤルQ2に関する事業、つまり情報料回収代行サービスは、控訴人の電気通信業務に関連する業務ではある。そこで、控訴人は、平成元年五月三〇日、右のサービスを日本電信電話株式会社法一条二項所定の附帯業務として、同法施行規則一条に従い郵政大臣に届出た。

控訴人の附帯業務については、同法施行規則一条によるとき、「当該業務に係る収支を明確にした上で、収支相償うように営むもの」、すなわち、「収支相償」の原則に従うものとされているから、控訴人がもっぱら利益を上げることを目的として附帯業務を運営することは、許されない。そこで、控訴人は、綿密なマーケット・リサーチを経たうえ、収支相償の原則に従って、情報提供者から、情報料回収代行サービスの経費及び手数料として、提供される情報一番組当たり月額一万七〇〇〇円の金員と回収代行の対象となった情報料の九パーセント相当額の手数料等の支払を受けることとした。したがって、控訴人のダイヤルQ2すなわち情報料回収代行サービスはもっぱら利益を上げることを目的とする事業ではなく、これの利用者や情報提供者の利便をもっぱら念頭に置き、厳密なコスト計算に基づく収支相償うことをもって足りるとする業務である。

(四) このように、情報提供者と利用者との間の有料情報提供契約に基づく情報料債務と控訴人と加入電話契約者との間の加入電話契約に基づく通話料債務とは、役務の内容を異にする別個の契約関係から生じる別個の債務である。これらの契約は、これに基づく権利義務の発生、存続、消滅の要件がまったく異なり、法律上は独自性のある別の契約関係である。そして、前記(一)のダイヤルQ2の実際の利用方法からしても、そこでは従前になかったまったく新しい方法による通話がなされる訳ではなく、契約約款がもともと予定している利用形態による通話がなされるに過ぎないから、これによって控訴人と加入電話契約者との間に通常の加入電話契約と別異の契約関係が成立する訳ではない。したがって、たとえ情報提供契約に不成立、取消、無効の瑕疵があったとしても、これらの事由が通話料債務の発生、存続について影響することなど、当事者の合意あるいは特段の事情でもない限り、ないことである。

また、控訴人は、収支相償の原則に従って情報料回収代行サービスを営んでおり、情報提供者との間に親会社と子会社という資本系列が存在する訳ではなく、一方が他方の営業部門であるとか一方が他方に事実上支配力を及ぼす関係もない。

このようにして、ダイヤルQ2にかかる事業が控訴人主導の控訴人と情報提供者の共同収益事業であり、情報提供契約と電話通信が、情報料回収代行サービスを架橋として構造上一体化したもので、両者は不可分の関係にある、といったようなことはないのである。

(五) ただ、前記(一)のダイヤルQ2の利用方法に照らすとき、これを利用者の立場から見ると、これを利用することによって同一機会に情報料と通話料金の各債務が発生し、後に控訴人からこれらの料金をまとめて請求されてくるため、これらの料金債務が別個のものとして発生しているにもかかわらず、あたかも「ダイヤルQ2利用料」とでもいった一個の債務が発生しているかのように感じられるであろう。しかし、これらの債務が別個のものであり、控訴人と情報提供者との間に共同事業性もないことは、前記のとおりである。

そしてまた、情報料と通話料金とはそれぞれ独立に料金体系が定まっているところ、いわゆる合成秒数による課金は、この二つの独立の料金を算出するに際し、既存のシステムを利用する関係上、計算の順序としてまず情報料と通話料金との合計額を算出しているもので、その後、更に計算は続き、最終的に通話料金と情報料が区分して算出されている。したがって、この両者を一体とした新たな料金体系が存在する訳ではない。合成秒数による計算を行ったのは、ダイヤルQ2の開始当時、控訴人の計算システムは、一呼の通話について、情報料と通話料金とを別々に計算することが物理的に不可能であったという事情によるもので、その後、平成六年を目途に、情報料と通話料金とをはじめから別々に測定できるようにシステムを改めることを計画してきていたが、いずれにしても、この課金システムのために情報料債権と通話料金債権とが法律上不可分一体となってしまうことはない。

3 信義則の適用について

(一) 控訴人は、ダイヤルQ2にかかる情報料回収代行サービスが控訴人の附帯業務ではあるが、これについて、平成元年六月六日に日本経済新聞に新聞広告したのを皮切りに、平成二年に四回、平成三年に七回、平成四年に五回、平成五年及び平成六年には各一回、それぞれ新聞広告して、これの周知に努め、これとは別に、ダイヤルQ2については相当量の新聞報道がされた。更に控訴人は、その業務を紹介する「ハローインフォメーション」なる小冊子を、平成三年九月、平成四年三月、平成五年三月にそれぞれ料金請求書に同封して加入電話件数約五七〇〇万件のすべての契約者に送付した。そして、ダイヤルQ2に関する契約約款(一六二条ないし一六四条)は、前記のとおり認可を要しないものであるが、電話サービスと密接に関連し、不特定多数の利用者を対象とするものであるから、認可約款と同じ掲示を控訴人の各事業所において行った。

このようにして、ダイヤルQ2は、新聞広告、新聞報道、各加入電話契約者への個別通知、各事業所における掲示等により、その周知がなされた。

(二) ダイヤルQ2は、必要なときに有益な情報を手軽に手に入れて、それに対する対価も煩雑な手続なしに支払うことができるというもので、利用者及び情報提供者双方の利便に寄与するところが大きい有用、有益な制度である。ただ、提供される番組すなわち情報の中には、必ずしも社会的に有用、有益なものとは評価し難いもの、例えばいわゆるアダルトもの等の一部の娯楽番組が存在したため、制度そのものに誤った先入感が一部に生じた。しかし、一部にこのような番組があるからといって、ダイヤルQ2の有用性、有効性が損われるものではない。そして、そもそも控訴人は、ダイヤルQ2において、情報提供者と利用者に電話回線を提供してその間の情報の授受を媒介するとともに情報料の回収代行をするにとどまって、授受される情報の内容や価値に介入してはならない、つまり通信の秘密を遵守すべき立場にあるから、授受される情報の如何によって、控訴人の右業務の評価が左右されるものではない。

(三) ただ、ダイヤルQ2において提供される番組の良否によっては、制度の有用性、有益性を損うことになる。そこで、控訴人は、ダイヤルQ2開始当初から番組について倫理審査を義務づけ、平成三年二月からは倫理審査機関の体制を整え、問題のある番組につき情報料回収代行サービスに関する契約を解約するなどして整理してきた。そして、ダイヤルQ2の利用規制や倫理審査が難しいツーショット番組の廃止等の措置をとってきたほか、情報料や通話料金の高額化を防止するための種々の施策を講じてきた。

(四) このようにして、ダイヤルQ2における控訴人の業務そのものは、もともと道徳的、倫理的に非難される余地のないものであるが、控訴人は、これとはかかわりなく、別にダイヤルQ2の周知、これによる情報の適正化、情報料や通話料金の高額化の回避等、ダイヤルQ2の改善、適正化を図ってきた。控訴人がダイヤルQ2に関する通話料金の支払を請求することが許されないなどということはない。

ダイヤルQ2を利用すれば、これに伴って通話料金がかかることはもとより、通話時間や遠距離通話によって通話料金が高額化することは、ダイヤルQ2以外の通話におけると同様である。そして、たとえ被控訴人がダイヤルQ2という制度を知らなかったとしても、それは通話料金の支払を免れる事由にはならない。

4 被控訴人の管理義務不履行による損害賠償責任について(当審において追加された予備的請求)

(一) 被控訴人は、加入電話契約上、控訴人に対し、本件加入電話を適正に管理する義務を負う。

(二) 被控訴人は、自らは転居したにもかかわらず、旧住居に本件加入電話を残して父や弟春夫にこれを利用させていた。このため、春夫がダイヤルQ2を利用するのを放置して加入電話の管理を怠り、その利用による別表三記載のダイヤルQ2利用にかかる通話料金合計一三万一七七〇円(別表三記載の「ダイヤルQ2の通話料(判明分)」、「ダイヤルQ2の通話料(分計分)」の合計額及びこれに対する消費税相当額三九五三円(円未満切捨て)、以上合計一三万五七二三円相当額の損害を控訴人に被らせた。

(三) よって、控訴人は、本訴請求のうち、ダイヤルQ2にかかる通話料金そのものの支払請求が認められないならば、本件加入電話契約上の被控訴人の管理義務の不履行に基づき、被控訴人に対し、右通話料金とこれに対する消費税の各相当額合計一三万五七二三円の損害賠償金を支払うよう、予備的に求める。

五  被控訴人の、争点についての主張

1 ダイヤルQ2利用による通話料金には契約約款一一八条が適用されないことについて

(一) なるほど、契約約款一一八条には、契約者回線から行った通話は、それが当該契約者以外の者が行った通話であっても、その通話料金は当該契約者が支払うものとされており、この約款が郵政大臣の認可を受けたもので加入電話契約者を拘束することについては、被控訴人も争わない。

しかし、契約約款一一八条にいう通話とは、通常の架電による通話のことをいうのであって、契約者以外の者がダイヤルQ2を利用したことによる通話はこれに該当しないというべきである。したがって、本件のように加入電話契約者である被控訴人以外の春夫がダイヤルQ2を利用したことによる通話料金について、被控訴人が右約款に基づき支払義務を負うことはない。

(二) すなわち、右約款が郵政大臣の認可を受けたのは、控訴人がダイヤルQ2に関するサービス事業を開始した平成元年七月よりもはるか以前のことであって、認可を受けた当時、ダイヤルQ2のような事業が開始されることなどまったく予測されていなかった。そして、ダイヤルQ2利用による通話料金は、控訴人の右事業の開始によって始められた情報提供者の有料情報サービスに伴う新たな電話回線需要により生じるものであって、情報料と不可分一体の密接な関係にあり、従来の一般通話による通話料金とはまったく異質なものである。そうすると、右約款は、ダイヤルQ2利用による通話料金については対象外としていると解すべきである。

のみならず、控訴人のダイヤルQ2にかかる事業は、郵政大臣の認可を要する事業であるにもかかわらず、控訴人はこれを受けていないから、この事業は電気通信事業法三一条に違反した無認可事業でそれ自体違法である。したがって、この事業の過程で生じるダイヤルQ2利用による通話料金も認可を受けていないことになるから、この観点からしても、認可を受けている契約約款一一八条が認可を受けていないダイヤルQ2利用による通話料金に適用されることなどない。

(三) また、通常の架電においては、加入電話契約者以外の第三者がその加入電話で通話した場合、たとえそれが無断であっても、通話料金そのものは一定の基準で定められていて安価で予測の範囲内におさまるものであり、調べれば誰が架電したかも分かるから、自ずと通話料金の高額化を回避できるようになっている。したがって、契約者が第三者の通話によって不測の額の通話料金を負担する心配などなかった。そうであればこそ、その公共性、公益性の見地から、契約約款一一八条が、実際の通話者の如何を問わず、当該加入電話に生じた通話料を契約者の負担とする旨定めたことに合理性が認められるのである。

しかし、ダイヤルQ2に関する事業は、右のような電話の質を根本的に変えてしまった。すなわち、ダイヤルQ2の利用は、加入電話契約者が従前は通常の架電による通話料金のみを負担すればよかったものが、これとはまったく異なる「情報料の負担とそれに伴う通話料金の負担」という新たな問題を発生させるだけでなく、通話料金が予測を越えて高額となり、実際に誰が利用したかを特定する方法がない。しかも、そこで提供される番組には何の有用性もないものが多く、このダイヤルQ2の事業そのものは公共性も公益性も認められない単なる営利事業である。

このように、契約約款一一八条を、従来の通話に対するのならばともかく、これとは変質したダイヤルQ2にかかる通話に適用する合理性はない。

(四) さらに、被控訴人が控訴人との間に加入電話契約を締結した昭和六三年一月八日当時、ダイヤルQ2に関する事業は存在せず、被控訴人は、将来、これの利用によって多額の通話料金債務を負担することがあるなど、まったく予測できなかったものである。控訴人がダイヤルQ2にかかる事業を開始するに当たって、これについて広く有効な周知をしたことはなく、加入電話契約者の意向にかかわりなく事業を開始したのであって、被控訴人は、本訴請求があるまでこの事業の存在をまったく知らなかった。

そして、ダイヤルQ2は、その性質上、情報料と通話料金の高額化を招きやすく、契約者以外の第三者の利用を防ぐ有効な方法も無いものであるから、このような事業を導入、開始するに当たっては、契約者に不測の負担、損害を被らせないよう特段の配慮が必要である。しかし、控訴人がこのような配慮をした形跡はない。

このように、ダイヤルQ2は、契約者にとって、必ずしも有用、有益なものではなく、むしろ有害、危険な事業であるのに、契約者の承諾なく、じゅうぶんな公示、周知をすることなく控訴人が一方的に導入した事業であり、この点においても、ダイヤルQ2の利用による通話料金につき契約約款一一八条を適用する合理性、相当性はない。

2 ダイヤルQ2における情報料と通話料金の不可分一体性について

(一) ダイヤルQ2の利用による通話料金は、次の(二)ないし(六)記載の理由により、加入電話契約者に対する関係においては、情報料と不可分一体のものであり、情報料債務の成立及び有効性に法的運命を左右される付随的債務である。したがって、被控訴人が仮に本件のダイヤルQ2にかかる情報料の支払義務を負わないならば、これに伴う通話料金の支払義務も負わないというべきところ、後記3のとおり、被控訴人は、春夫の本件ダイヤルQ2の利用にかかる情報料の支払義務を負うことはないから、これにかかる通話料金の支払義務もない。

(二) ダイヤルQ2は、控訴人が情報料回収代行サービスをしない限り成り立たないものである。このサービスの開始が、電話利用による情報提供産業の創出、存続に不可欠の基盤となっているのであって、この意味において控訴人と情報提供者は不可分一体の経済関係にある。

(三) そして、控訴人は、情報提供者との情報料回収代行サービスについての契約に基づき、情報提供者から、その提供する情報の一番組当たり月額一万七〇〇〇円と回収代行情報料の九パーセント相当額を手数料の名目で継続的に徴収している。のみならず、控訴人は、別にダイヤルQ2の利用時間に見合う通話料金収入をも得ることになるから、ダイヤルQ2は、控訴人にとって高収益をもたらす事業となっている。

(四) 情報提供者がダイヤルQ2に参入するためには、控訴人との間に必ずダイヤルQ2にかかる契約を締結しなければならず、これを介して、控訴人ひとりが全情報提供者を一手独占的に支配し、ダイヤルQ2番組を実質的に取り仕切っている。このことは、平成三年一〇月に控訴人が情報提供者の意向を聴かずにパーティライン番組の情報料の上限を切り下げたり、右契約の一部をたびたび情報提供者に不利益に変更したことからも明らかである。

(五) このように、ダイヤルQ2は、控訴人主導の控訴人と情報提供者との共同収益事業というべきものであり、そこで利用者に提供されているダイヤルQ2の番組は、情報と電話サービスが一体となったひとつの商品である。そして、控訴人がこの商品から得る収益は、情報料と通話料金とが渾然一体となったものである。そうであるから、控訴人は、本訴において、当初これらを区別することなく渾然一体のものとして請求し、一部にはなお分計できないものが残ったのである。

実際にも、ダイヤルQ2を利用しようとするとき、番組冒頭のガイダンスは、情報料と通話料金を区別することなくこれらを合算した合成秒数による料金についての音声のガイダンスが流れてくるだけであって、利用者は、その電話がどこの地域にかけられたか、つまり情報提供者の所在も通話料金の額もわからない。加えて、前記のように、控訴人は情報料と通話料金とを区別することなく渾然一体として請求していたのであるから、利用者にしてみれば、ダイヤルQ2を利用するとき、これが控訴人と情報提供者とがそれぞれ独立して個別のサービスを提供していると認識することはできないし、却ってひとつのサービスを受けているとしか理解できないものである。

(六) 以上のとおり、ダイヤルQ2においては、「情報提供」と電話による「通信」とが、ダイヤルQ2サービスを架橋として密接に結びつけられて構造上一体化し、経済的には、控訴人と情報提供者による一個の有料情報サービス商品として、ダイヤルQ2番組が利用者に提供されている。すなわち、社会的、経済的に「情報提供」と「通信」サービスとが不可分一体となったものとしてダイヤルQ2番組が作られ、提供され、利用されているのである。

したがって、「情報提供」契約自体が不成立、あるいは取消、無効となれば、これと不可分一体となっている「通信」部分、すなわちダイヤルQ2利用による通話料金も法的運命をともにし、前者の不成立、取消、無効により、後者の不発生、消滅をきたすとするのが、実情に即し妥当な考えである。

3 ダイヤルQ2における情報料支払義務の帰趨について

(一) ダイヤルQ2利用にかかる情報料は、これを利用し情報提供を受けた者が支払義務を負う。すなわち、ダイヤルQ2においては、控訴人のいうように、控訴人をはじめ、情報提供者、加入電話契約者、情報提供を受ける利用者の四者が登場するものの、情報料が情報の提供を受けたことへの対価であるからには、これの支払義務を原初的に負担する者は、情報提供者から情報提供を受けた当の利用者以外になく、これを利用者以外の者が負担するというためには、別の法理が必要である。これを本件についてみると、本件ダイヤルQ2を利用したのは被控訴人の弟春夫であって被控訴人ではなく、被控訴人と情報提供者との間には何の契約関係、合意もないから、右の情報料を支払うべき者は春夫以外にない。

(二) そしてまた、契約約款一六二条ないし一六四条も、春夫の利用によって生じた情報料を加入電話契約者である被控訴人が負担することの根拠にはならない。

契約約款は、控訴人と加入電話契約者との間を律するものにとどまり、契約約款の当事者ではない情報提供者と加入電話契約者もしくはダイヤルQ2の利用者との関係を律するものではない。そして、ダイヤルQ2における情報料は、情報提供者と利用者との間の情報提供契約に基づき発生するものであるから、この間の関係に契約約款を適用する余地はなく、契約約款によって加入電話契約者もしくは利用者に情報料の支払義務を創設することなどできない。

また契約約款一条や一三章以下の定めに照らすとき、契約約款適用の対象業務は、控訴人が主体となって提供する電話サービス及び付随サービスであって、ダイヤルQ2における情報提供者の有料情報サービスはまったく対象外とされている。そして、契約約款一六二条一項の文言も、契約約款とは離れたところ、つまりダイヤルQ2における情報提供者とその利用者との間の情報提供契約に基づき発生した情報料について、これを控訴人が情報提供者に代わって回収することの承諾をいっているのであって、ここでは情報料が契約約款外で既に成立していることが前提とされている。

このようにして、契約約款一六二条ないし一六四条は、加入電話契約者に情報料の支払義務を負わせる根拠になり得ない。

(三) そしてまた、本件において、情報料の支払義務を負担した者は春夫であって被控訴人ではない。そうすると、仮に控訴人がこの情報料を情報提供者に支払ったとしても、これによって控訴人が被控訴人に対する求償権を取得する余地などまったくない。

(四) このようにして、被控訴人は、情報提供者に対しても控訴人に対しても、春夫がダイヤルQ2を利用したことにより発生した情報料あるいは同額の求償金の支払義務を負うことなどない。そして、この情報料とともに発生した通話料金が情報料と不可分一体の関係にあって、その発生、帰趨について法的運命を同じくすることは、既に主張したとおりである。

4 信義則の適用について

(一) 仮に、被控訴人が春夫のダイヤルQ2利用にかかる通話料金の支払義務を負担するとしても、控訴人がこれの支払を求めるのは、信義則に照らして許されない。

(二) 既に述べたように、ダイヤルQ2制度は、周知、公示を尽くさず、加入電話契約者の承諾を得ることなく、控訴人が主体となって情報提供者とともに一方的に導入したものである。そして、そこで提供される情報には、青少年に甚大な実害を与えるいわゆるアダルト、ツーショット、パーティーライン等の社会的に有害というべきものが多いのに、未成年者や若年者らが電話機のダイヤルを回すだけで容易にこれらの情報に接することができる仕組みになっている。このため、これらの者による加入電話の無断使用とこれに伴う通話料金の高額化を招くことになり、加入電話契約者は、予期せざる高額の通話料金と情報料(控訴人は、契約約款一六二条ないし一六四条を根拠に、無断使用による情報料をも加入電話契約者に支払を請求していた。)を請求される事態となった。本件における被控訴人も、そのうちのひとりである。

(三) しかし、このような事態は、控訴人がダイヤルQ2開始に当たって、その周知、公示を徹底し、なによりも消費者保護の視点から提供される情報を選別し、これの利用につき申込み制を採用するなど、適切な措置を講じておれば、防止できたはずのものである。

しかるに、控訴人は、これらの措置を講じることなく事態を放置するか、何らかの措置を講じたとしてもそれは不徹底であった。このため、被控訴人としては、春夫の無断使用を防ぎようもなかったのである。控訴人のダイヤルQ2の利用にかかる通話料金の請求は、ダイヤルQ2の種々の欠陥をすべて何の落ち度もない加入電話契約者に押しつけるものであり、信義則上、許し難いというべきである。

5 控訴人の管理義務不履行の新主張について

右主張を争う。

本件通話料金は、前記4・(三)のとおり、控訴人がダイヤルQ2においてなすべき消費者保護の措置を怠ったことから生じているものである。被控訴人は、通常の注意をもって本件加入電話を管理しており、責められる点はない。

第三  証拠関係《略》

第四  争点に対する判断

一  ダイヤルQ2の創設と仕組みについて

1 控訴人は、昭和五九年一二月二五日に公衆電気通信法及び日本電信電話公社法に代わって電気通信事業法及び日本電信電話株式会社法が制定されたことに伴い、いわゆる民営化の一環として、日本電信電話公社を改組して設立された特殊会社であり、電気通信回線設備(送信の場所と受信の場所との間を接続する伝送路設備並びにこれらの附属設備をいう。)を設置して電気通信役務を提供することを業とする第一種電気通信事業者である(電気通信事業法九条)。そして、控訴人は、その業務につき契約約款(電話サービス契約約款)を定めたが、これについて同法三一条により同法や日本電信電話株式会社法が施行された昭和六〇年四月一日に郵政大臣の認可を受け、電話サービスを提供している。

(以上の事実につき、弁論の全趣旨)

2 ところで電気通信事業法の施行により電気通信事業がいわゆる自由化され、固有の電気通信設備を保有しない事業者も、控訴人ら第一種電気通信事業者の設備を利用して第二種電気通信事業者として通信サービスを営むことが初めて法的に可能となった(同法二一条以下)。

ダイヤルQ2制度は、右のいわゆる自由化によって控訴人の料金の計算・回収のシステムが他の電気通信事業者に開放されたことに伴い、創設されたものであるが、控訴人は、この制度における控訴人の業務である情報料課金・回収代行サービスを、電気通信事業法にいう電気通信事業そのものではなく、日本電信電話株式会社法一条二項にいう附帯業務であるとして、同法施行規則一条に従って、平成元年五月三〇日、郵政大臣に届け出たほか、同年六月一日、右サービスに関する契約約款一六二条ないし一六四条(別紙契約約款抜粋参照。ただし、一六二条一項ただし書及び同条二項は、平成二年一〇月三〇日に追加変更されたものである。)を契約約款に追加変更し、これを控訴人の全国の営業所等に店頭掲示して公示したうえで、右サービスを開始した。

(以上の事実につき、弁論の全趣旨)

3 ダイヤルQ2制度は、おおよそ次のようなものであるが、これには、電話回線を所有する控訴人をはじめとして、独自の効率的な料金回収の手段を持たない情報提供者、加入電話契約者、実際に情報提供を受ける利用者の四者が登場するが、加入電話契約者と利用者とが同一人であるときもある。

まず、控訴人と情報提供者との間においては、「ダイヤルQ2(情報料課金・回収代行サービス)契約」という契約が締結される。これによると、情報提供者は、控訴人の電話回線を通じて、利用者に情報を有料で提供するが、これによる情報料の回収事務を控訴人に委託し、右委託を受けた控訴人は、自己の管理下にある機器により測定した情報料を、実際の利用者がなんぴとであるかを問わず、当該使用された加入電話の契約者から回収してこれを情報提供者に支払うものとし、この際、情報提供者から、手数料として、その提供する情報一番組当たり月額一万七〇〇〇円及び回収代行の対象となった情報料の九パーセント相当額の金員の支払を受けることになる。

そして、控訴人の考えでは、控訴人と加入電話契約者との間においては、前記の契約約款一六二条ないし一六四条が適用され、控訴人は、当該加入電話契約者の加入電話を通じて情報が提供されたときには、その実際の利用者がなんぴとであるかを問わず、つまり利用者が当該加入電話契約者以外の者であっても、これによる情報料を、情報提供者に代わって当該加入電話契約者から回収できるというのである。

次に、情報提供者と利用者(これが加入電話契約者と同一人であることもあるというのは、前記のとおりである。)とは、次のようにしてかかわりを持つことになる。すなわち、ダイヤルQ2を実際に利用者が利用して情報提供を受けるには、特定の加入電話契約者の特定の電話番号の電話機から〇九九〇に始まりその後に六桁から成る特定の情報提供者の特定の番組番号に架電する。すると、「このサービスは、情報料と通話料を合わせて、〇〇秒毎に〇〇円の料金がかかります。」という音声による案内が流され、利用者がこれを聞いてそのまま切らずにいると、続いて音声による情報が提供されるのである。

(以上の事実につき、《証拠略》)

二  情報料の支払義務の発生・帰属について

1 前記一・3の認定事実に鑑みると、ダイヤルQ2制度における情報料の発生・帰属は、次のようなものになると認められる。

まず、情報料は、次のようにして発生する。すなわち、利用者が情報提供者から情報を得るために情報提供者に自ら架電するか、あるいは他の者をして架電させて、有料の情報を受け取ることによって売買類似の無名契約が成立し、これとともに利用者は情報提供者に対し情報を受け取ったことへの対価としての情報料の支払義務を負担することとなる、と認めるのが相当である。

これによると、情報料支払義務を原初的に負う者は、利用者以外にないというべきである。したがって、利用者が加入電話契約者と同一人である場合ならともかく、別人であるときに加入電話契約者が利用者の負担した情報料の支払義務を負担することは当然にはない。利用者でない加入電話契約者が右義務を負担するには、これを負担することを承諾する何らかの行為、例えば債務の引受とか保証をしたとかの行為がなければならない。

以上を本件についてみると、第二、二(引用した原判決「事実及び理由」の第二・一・3。)に判示のとおり、ダイヤルQ2の利用者は春夫であって、加入電話契約者である被控訴人ではなく、しかもその利用は被控訴人に無断であったから、情報料の支払義務を原初的に負担した者は春夫にほかならず、後に被控訴人がこれを負担することを承諾したことを窺わせる証拠もない以上、春夫ひとりが、ダイヤルQ2利用にかかる情報料の支払義務を負担していることとなる。

2 もっとも、契約約款一六二条ないし一六四条及び前記一・3の認定事実に照らすとき、控訴人は、当初、この条項によって、利用者と加入電話契約者とが別人である場合でも、情報料を加入電話契約者から取り立て得ると解釈していたことが窺われる。しかし、そもそも契約約款は控訴人と加入電話契約者との間を律するものであるから、これによって加入電話契約者と契約約款の当事者でもない情報提供者との間を律することなどできない。そして、本来、情報料の支払義務の発生・帰属については、前記のとおり、情報提供者と利用者若しくは加入電話契約者との間の契約ないし合意に従って決定されるべきものであって、これを契約約款によって決定することは、特段の事情のない限り、ないことというべきである。つまり、情報料支払義務の発生・存続・消滅を直接の当事者でもない控訴人の定める契約約款によって定めることは、特段の事情のない限り、できないといわねばならない。そして、このような特段の事情は、証拠中に見当たらない。そうすると、契約約款一六二条ないし一六四条を加入電話契約者の情報料の支払義務の発生の根拠とするわけにはいかない。右の条項は、加入電話契約者自らが利用者である場合及び別人の利用者が負担した情報料の支払義務を加入電話契約者自身が負担することを承諾した場合に、控訴人が情報提供者に代わって当該情報料を加入電話契約者から回収することを、加入電話契約者が同意したとみなすにとどまると解すべきである。

3 なお、情報提供者と利用者間の標準約款(有料情報サービス契約約款。甲二の一ないし三のうちの「別表1」。)には、「本サービスの利用者(その利用がNTTの提供する加入電話等からの場合はその加入電話等に係るNTTとの契約者をいいます。)」が情報料を支払う旨定められ、あたかも利用者でない加入電話契約者も情報料の支払義務を負担するかのように定めている。

しかし、前記のとおり、右の有料情報サービスは情報提供者と利用者との間に行われるものであって、情報提供者と利用者ではない加入電話契約者との間に行われるわけのものではないから、このサービスの当事者でもない加入電話契約者に右の標準約款を適用する余地はなく、したがって、この標準約款により、利用者でもない加入電話契約者が情報料の支払義務を負担することなどない。

また、前記一・3の控訴人と情報提供者との間に締結される「ダイヤルQ2(情報料課金・回収代行サービス)契約」(甲二の一ないし三)には、控訴人が回収代行の対象とする者は、「利用者(その利用が加入電話等からの場合はその加入電話等に係る控訴人との契約者をいう。)」であるとして、ここでもあたかも利用者ではない加入電話契約者も情報料支払債務を負うかのように定められているが、この契約を契約当事者外の加入電話契約者に及ぼし得る根拠はなく、したがってこの定めをもって利用者でもない加入電話契約者に情報料支払義務を負わせることなどできない。

このようにして、いずれにしろ被控訴人が春夫のダイヤルQ2利用にかかる情報料の支払義務を負うとする理由などない。

三  ダイヤルQ2利用にかかる通話と契約約款一一八条

1 前記二において検討したとおり、被控訴人は、春夫のダイヤルQ2利用により生じた情報料の支払義務を負わない。それでは、同じ春夫のダイヤルQ2利用による通話につき契約約款一一八条の適用があるか、つまりこの通話による通話料金を誰が負担し支払うべきなのかというのが次の問題である。

2 控訴人と加入電話契約者との間の関係は契約約款に基づき律せられるところ、契約約款一一八条は通話料金の支払義務の発生・帰属について定める。この一項によれば、加入電話契約者は、契約者回線から行った通話については、自ら行った通話はもとより他の者が行った通話であっても、所定の通話料金を支払うべきものとされている。この定めは、電気通信事業の公共性に照らし、通話料金の支払義務者を画一的、一義的に確定して、徴収事務に要する経費を最小限に抑え、低廉で合理的な料金で通信役務を提供する一助とすることに出たものと解され、その相当性、合理性は広く承認されている。

(以上の事実につき、《証拠略》)

そうすると、加入電話契約者ではない他の者が契約者回線から行った通話については、これを加入電話契約者が承諾しているかどうかを問わず、これによる通話料を加入電話契約者が支払うべきである。そしてまた、電気通信事業法三一条四項、同法施行規則二二条、契約約款一一八条三項によるとき、通話がこれらに定める場合に該当しない限り、この通話の通話料金は減免できないと認められることに照らせば、右の加入電話契約者の支払義務は、他の者の通話の態様や内容、通話料金の多寡にも無関係に発生するというべきである。

3 そして、契約約款においては、通話とは、「おおむね三キロヘルツの帯域の音声その他の音響を電気通信回線を通じて送り、又は受ける通信」と定義されている(三条・3)ところ、これは右のとおり「主として通話の用に供することを目的として伝送交換を行うための電気通信回線設備」である「電話網」を介して行われる(三条・4)。控訴人は、この「電話網」を使用して他人の通信を媒介する「電話サービス」を提供するが、通話料金はこの提供された「電話サービス」使用の対価である(一条、三条2・5、一一四条、一一八条)。

(以上の事実につき、《証拠略》)

そこで、前記一・3に認定したダイヤルQ2の実際の利用方法をみると、春夫も被控訴人の契約者回線を使用して同様の方法によりダイヤルQ2を利用したものと認められる。そして、その利用方法と右認定の「通話」の意味及び「通話料金」の発生根拠とを併せ考えると、春夫のダイヤルQ2の利用は、被控訴人の契約者回線を使用して情報提供者との間で「通話」したことにほかならず、それも控訴人の電話網を介してのことであるから、その使用の対価としての通話料金を発生させる性質のものというべきである。

そして、前記2のとおり、加入電話契約者は、他の者がその契約者回線を使用した場合、その態様や内容、通話料金の多寡と無関係にその通話による通話料金の支払義務を負うという契約約款一一八条一項の趣旨を考えると、春夫のダイヤルQ2利用にかかる通話料金についても、右条項の適用があるとするのが相当である。

被控訴人は、春夫のダイヤルQ2利用にかかる通話がそもそも契約約款の予定しない通話の態様であり、したがって契約約款一一八条一項が適用される余地はないなどと種々主張するが、次に説示するようにいずれも採用し難いものである。

4 まず、被控訴人は、ダイヤルQ2利用にかかる通話の形態が、契約約款一一八条に基づき通話料金の支払義務を発生させる通話とは異質でありこれに該当しないと主張する。

しかし、前記一・3に認定したダイヤルQ2の実際の利用方法に鑑みると、利用者が情報提供者から情報を受け取る方法は、前記三・3に説示した契約約款にいう「通話」を介して控訴人の提供した電話網を使用することによるもので、利用者が情報提供者に架電し情報を受け取るまでのこの一連の行為は、これを外形的にみるかぎり、いわゆる通常の通話の形態との間に相違がないといわねばならない。

確かに、引用にかかる原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」の「一 本件の事実経過」に記載の事実(以下、この事実を「本件の事実経過」という。)及び前記一・2及び3の認定事実によれば、ダイヤルQ2制度は、被控訴人が控訴人との間に加入電話契約を締結した後に創設されたものであって、被控訴人がダイヤルQ2制度の存在を知ったのはこの創設後の平成二年一一月中旬であることが認められるから、この事実によれば、被控訴人の加入電話がダイヤルQ2に利用されることは、この制度の存在を知るまでは、被控訴人にとってその予測の範囲外であったというべきである。しかし、繰り返しいうように、ダイヤルQ2を利用するときの架電の形態は、いわゆる通常の通話方法と何ら異なるところがないのであるから、被控訴人の予測外の利用方法とは、架電の形態をいうのではなく、架電の目的とその相手方、すなわち情報提供者から有料の情報を受け取るために架電するということが予測の範囲外であるというにとどまるというべきである。そしてまた、情報提供者がなんぴとであり、その情報の内容、質がどのようなものであるかによって、右の架電の形態が異なってくるものでもないことは当然であろう。さらに、ダイヤルQ2制度の創設は、前記一・3に認定したその仕組みに照らせば、電話回線の新たな需要を生み出すものであり、架電先の所在地(より正確にいえば情報提供者の通信装置の設置場所)及び利用時間の如何によっては通話料金が高額化する場合が生じるであろうことは、容易に推認できる。しかし、電話回線の新たな需要というのも、従来と変わらぬ方法による架電の機会が増加するということにとどまり、まったく別の形態の架電方法が出現するわけのものではなく、したがってダイヤルQ2の利用が右の架電による限り、通話対地の遠近や利用時間の長短に伴い通話料金が変動することも、当然である。

このように、ダイヤルQ2利用にかかる通話の形態が契約約款の予定しない通話であるとの被控訴人の主張は、採用できない。

5 次に、被控訴人は、ダイヤルQ2における控訴人の事業が郵政大臣の認可を受けない無認可事業であるから、ダイヤルQ2利用によって生じる通話料金も無認可となり、このような通話料金を請求することなどできないとも主張する。

しかし、前記一・2及び3の認定事実によれば、ダイヤルQ2制度における控訴人の事業は、情報料の測定・課金・回収代行から成るものであるから、日本電信電話株式会社法一条一項にいう控訴人の本来の事業である電気通信事業、すなわち電気通信事業法二条所定の事業そのものには該当しないというべきである。ただ、同じ前記の認定事実によれば、ダイヤルQ2における控訴人の業務が本来の業務である電気通信事業に密接に関連するものであるということができるから、それは日本電信電話株式会社法一条二項にいう附帯業務であるというのが相当である。そして、同法施行規則一条によれば、附帯業務については、郵政大臣に届け出なければならないとされているに過ぎないから、ダイヤルQ2制度における控訴人の業務は届け出ることをもって足り、認可を受けるべきものではないことになる。そうであれば、ダイヤルQ2制度における控訴人の業務が無認可事業であることを前提とする前記主張は、その前提において失当である。

なお、電気通信事業法上認可を要するとされているのは、同法三一条によれば、電気通信役務(同法二条三号参照)に関する料金その他の提供条件についての契約約款であるから、この点からもダイヤルQ2制度における控訴人の業務そのものは認可の対象外である(ダイヤルQ2制度における控訴人の業務が情報料の回収代行サービスにとどまらず、利用者に電話回線を使用させることも含むとしても、この使用の形態が契約約款の予定する通話であることは既に説示したとおりであるところ、この通話に関する料金や提供条件についての契約約款が認可を受けていることは、弁論の全趣旨により明らかである。)。

四  通話料金と情報料の各支払義務の不可分性について

1 これまでに説示したところに照らすと、被控訴人は、春夫のダイヤルQ2の利用にかかる情報料の支払義務を負うことはないが、通話料金については約款一一八条によってその支払義務を負うということにならざるを得ない。

ところが、被控訴人は、ダイヤルQ2制度が控訴人と情報提供者の共同事業であって、そこでは情報と電話サービスとが一体となって提供され、情報料と通話料金の各支払義務が渾然一体となって発生しているから、両者は法的運命を同じくすべきものであり、本件においては、被控訴人が情報料の支払義務を負うことがない以上、通話料金の支払義務を負担することもないと主張する。

そこで、この主張の当否について検討する。これまでに認定、説示したところにより、ダイヤルQ2制度における各当事者間の法律関係をここに整理すると、次のようなものになる。すなわち、控訴人と情報提供者との間には、「ダイヤルQ2(情報料課金・回収代行サービス)契約」という契約に基づき、控訴人は情報提供者の利用者に対する情報料債権を情報提供者に代わって回収するが、情報提供者から手数料として所定の金員の支払を受けるという有償の委任契約関係が成立する。情報提供者と利用者との間には、情報を目的物とする売買類似の無名契約が成立するが、情報料は情報授受の対価である(利用者と加入電話契約者とが同一人であるときは、契約当事者の一方はもとより加入電話契約者である。)。控訴人と加入電話契約者との間には、加入電話契約が締結されて契約約款が適用され、通話料金は控訴人の電気通信設備である契約者回線を使用したことへの対価として、加入電話契約者から控訴人に支払われるべきものとされる。

以上の法律関係に基づき考えると、情報料の支払義務と通話料金の支払義務とは、当事者の異なる別個の契約に基づき異なる役務に対する代償としてそれぞれ発生するものであることが明らかである。すなわち、ダイヤルQ2を利用して情報を入手するには電話回線(正確には電話網)の利用が必須であるから、情報料支払義務の発生には、右利用の対価である通話料金の支払義務の発生を必ず伴うという牽連関係があるけれども、右は事実上のものにすぎず、前記二つの義務自体は、渾然一体となった義務ではないし、また例えば主債務と保証債務、抵当債務と抵当権との関係のように、その成立・存続・消滅につき相互に依存するという法的関係も見い出し難く、法的には、特段の事情がない限り、相互に無関係に、かつ個別に成立・存続・消滅し得る別個の義務というべきである。

2 確かに、前記一・2及び3の認定事実によれば、ダイヤルQ2制度における情報提供者の事業が控訴人の情報料の課金・回収代行サービスの存在に大きく依存しており、このサービスがなければその存立が困難であることが認められ、また同じ認定事実によるとき、控訴人は、情報提供者から手数料という名のもとに、継続的に回収する情報料の額を算定の基礎とする所定の金員の支払を受けており、この金額は、利用者の数が多ければ多い程、その利用時間が長ければ長い程、つまり情報提供者の情報料収入が増えるのに伴って増えることとなるうえ、契約者回線の使用の対価である通話料金による収入も同時に増えることが認められる。また、「ダイヤルQ2(情報料課金・回収代行サービス)契約」によれば、情報提供者は、その提供する情報内容について倫理審査機関による倫理審査を定期的に受けることが義務づけられ、情報料の金額も控訴人の定める一二種類の料金の範囲内で選択すべきことが定められるなど、事項や程度は限られているとはいえ、本来、情報提供者において決定すべきことがらに控訴人が介入できるものとされていることも、認められる。

右認定事実によると、ダイヤルQ2制度における有料の情報提供事業は、その情報の授受が控訴人の電話回線を介してなされるものであるうえ、その情報料の回収につき控訴人の協力なくしては存立することが難しく、控訴人が情報の内容や情報料の額の設定に介入し得る余地があるとともに、情報料の一定割合に相当する金額の支払を受ける一方で通話料金の収入をも得ることになっているというべきであり、これによると、控訴人と情報提供者との関係は、どちらかというと後者が前者に依存する共同収益事業と評価し得る側面がないではない。

しかし、前記の認定事実によるとき、情報料の額の決定について情報提供者にまったく自由がないというのではなく、一定の制限はあるもののその範囲内で選択し決定し得ることとなっている。したがって、この制限が不合理なものでない限り、情報料の金額の決定権が控訴人にあると断じるわけにはいかない。そしてまた、控訴人が情報の内容の如何に介入し得る余地があるといっても、ダイヤルQ2制度においては、広く多数の者に対して、その者らが欲するときに欲する内容と量の情報が提供されることが予定されているから、その内容に自ずと倫理ないし公序の観点からの制約が生じるのも止むを得ないというべきである。したがって、控訴人が内容にその限りで介入する道をおいておく(もっとも、この介入の程度も後記五・4に説示するとおり、相当に抑制的であるべきであろう。)ことは是認し得るし、これによって情報提供者が情報の内容を決定する自由がなくなるとはいい難い。

さらに、控訴人は情報提供者から手数料という名目で所定の額の金員を受け取っているところ、前記三・5に説示したように、控訴人の情報料回収代行サービスは日本電信電話株式会社法一条二項にいう附帯業務であって、同法施行規則一条によるとき、この附帯業務を営む場合は、「当該業務に係る収支を明確にした上で、収支相償うように営むもの」とされており、これによると、控訴人が右のサービスをもっぱら利益を上げる目的のために営んではならないこととなっている。そうすると、反対の証拠のない限り、控訴人の右サービスは、一応、収支相償の原則に従って運営されていると推認するのも止むを得ないというべきところ、情報提供者から控訴人に支払われる前記の金員が収支相償の原則から逸脱した額であることを窺わせる証拠はない。このようにして、情報提供者の情報料収入の増加が、当然に控訴人の増収をもたらしはするものの、これによって収支相償の原則を逸脱する程の利益を得ているとは断じ難い。

そしてまた、情報料の増額に伴って通話料金も増額するというのは、情報提供が電話回線を介して行われるというダイヤルQ2の利用方法に由来するものである。すなわち、情報料、通話料金ともに、利用時間ないし通話時間とはいいながらいずれも時間を基準の一つにして算定され、しかもまったく同一機会に発生する。したがって、情報料の増額に伴って通話料金が増額するというのは、結果としてそのような現象が起るのであって、一方が他方を基準にして算定されているからではなく、それらは無関係に発生し算定されるのである。このようにして、通話料金が高額になることは、ダイヤルQ2利用に特有の事態ではなく、通常の通話においてもあることである。

以上の検討の結果に基づいて考えると、なるほど、ダイヤルQ2制度における控訴人と情報提供者との間には、依存、協力関係があることは間違いない。しかし、その関係は、右説示に鑑みると、控訴人が情報提供者を支配下におきこれを指揮監督しているというものではなく、また、控訴人と情報提供者とが一体となって一つの事業主体を構成しているものでもないというべきものである。したがって、右の依存、協力関係をもって共同事業であると仮にいってみても、その共同性は、控訴人が情報提供者と共同責任を負わねばならないとする程のものではない。それぞれの法的責任は、それぞれに個別に発生し、負担されるべきものである。

このようにして、控訴人と情報提供者との共同事業性の観点から、情報料と通話料金とが法的に依存ないしは牽連し、その法的運命を同じくするという主張は採用できない。

3 また、前記一・3認定のダイヤルQ2利用の手順によれば、情報提供が電話回線を介して行われるため、情報提供と電話回線の使用とは不可分に同一機会に同時進行的になされることになる。そして、同じ右認定事実によるとき、ダイヤルQ2利用のはじめに流される音声による案内では、情報料と通話料金とを区別することなく、これらを合わせた額の料金が告げられ、また本件の事実経過によれば、実際にも、控訴人は、ダイヤルQ2発足当初、これらを区別することなくその合算額を単に「通話料金」として加入電話契約者に支払うよう請求していた(このような対応が問題であることは、前記二の説示に照らし、明らかであろう。)というのである。そうすると、利用者からすると、ダイヤルQ2利用にかかる情報提供と電話回線の使用とは不可分一体のものであり、情報提供サービスと電話サービスとは渾然一体となった一個の商品として提供されたものと認識するということも無理からぬ点がある。

しかし、これまでに説示したように、情報料と通話料金の各支払義務は、まったく別の契約関係から別の役務の対価の支払義務として生じるものである。

そしてまた、《証拠略》によれば、被控訴人の加入電話からの架電は高度機能クロスバー交換機(AXS)に接続されていたものであるが、この加入電話から架電すると、ダイヤルQ2の利用とはかかわりのないいわゆる一般通話による通話料金と、ダイヤルQ2利用にかかる情報料と通話料金を合算した料金とに二分して記録されること、加入電話契約者から「明細記録希望」の申出があると、架電先、通話時間、通話料金が記録されて残り、これによって架電先の情報提供者とこれとの通話に要した通話料金が判明するから、情報料を知るには前記の合算額から情報提供者との間の通話料金を控除すればよいこと、「明細記録希望」の申出がないときは、架電先が情報提供者であることを示す「〇九九〇」までの番号は記録として残るがこれに続く六桁の番号は記録として残らず、料金も情報料と通話料金との合算額のみの数字と通話時間が残ること、したがって、この場合、情報提供者が特定できないから、右の合算額を情報料と通話料金とに仕分ける、すなわち分計することが不可能であること、もっとも、この場合でも、控訴人から情報提供者に支払われるべき回収代行にかかる情報料は、右の分計の可否とは関係なく、各情報提供者ごとに情報料を積算するネットワークサービスコントロール(NSP)という機器を設置して、情報提供者に不特定多数の利用者から架電があるごとにこれを度数によって積算し、これの一か月分の合計額によることになっていること、本件において、控訴人が情報料と通話料金とを分計できないといったのは、「明細記録希望」の申出がなかったため、前記の事情から情報料と通話料金とを分計する資料となる記録が残らなかったからであり、分計できたという通話料金は、控訴人が独自の必要から残した明細記録に基づき判明したものであること、以上の事実を認めることができる。

この認定事実によると、情報料と通話料金とは、実際にも分計が可能なものであって、これが渾然一体となってしまい分計できないというものではない。一見、渾然一体となっているように思われるのは、控訴人が、当初、契約約款一六二条ないし一六四条の追加によって、利用者でない加入電話契約者からでも情報料を情報提供者に代わって回収することができるという見解のもとに、ことを運ぼうとしたことにも一端の原因があると思われる。すなわち、既に説示したように、実は情報料と通話料金の各支払義務とは別個の契約関係から生じるものであるから、控訴人がこのことを正確に利用者ないし加入電話契約者に公示し、ダイヤルQ2を実際に利用する際の音声による案内においても一工夫し、さらに分計のシステムも明快なものにしておけば、渾然一体の外見を呈することはなかったのではないかと思われる。このように、控訴人にいささか拙速に走ったとみられても止むを得ないところはあるが、それは、情報提供者及び控訴人によって提供された各サービスの特性についての判断を左右する事由となるものではなく、このことは後の信義則の判断において斟酌されるべきことがらである。

よって、情報提供と電話回線の使用とが不可分一体の一個の商品であることを前提とする主張も採用できない。他に、ダイヤルQ2利用にかかる情報料と通話料金の各支払義務が法的運命を同じくすると判断すべき事情を認めることのできる証拠は見当たらない。

五  信義則について

1 被控訴人は、控訴人が春夫のダイヤルQ2利用にかかる通話料金を被控訴人に請求することは、信義則により、許されないと主張する。すなわち、ダイヤルQ2は、そもそも提供される情報の有用性、公益性に問題があるうえ、利用にかかる通話料金の高額化、加入電話の無断使用の増加をもたらし、加入電話契約者に不測の損害を被らせるおそれのある制度であること、そして、春夫のダイヤルQ2利用にかかる通話料金は、被控訴人にとって、まさに高額な無断使用によって生じた不測の損害であること、ところが、控訴人は、このような加入電話契約者の危険に配慮することなく、ダイヤルQ2制度を創設しこれを実施したのであって、このような場合、控訴人が被控訴人に対し契約約款一一八条を根拠に右の通話料金の支払を請求することは、信義則により、許されない、というのである。

そこで、以下検討する。

2 前記一・3に認定したダイヤルQ2利用の実際に照らすと、ダイヤルQ2利用の手順は、簡便かつ容易であるというべきである。そして、提供される情報の内容も多種多様である。したがって、ダイヤルQ2は、不特定多数の者にその欲する情報を簡便に取得する道を開いたもので、これが電話回線を介してなされることから、通話機会と通話時間が増加する可能性をももたらしたということができ、このことは、通話対地が遠くなるほど高くなるというダイヤル通話料の定めとあいまって、通話料金の高額化にもつながることである。

しかし、通話料金が高額になるということは、ダイヤルQ2利用に特有の事態ではなく、ダイヤルQ2利用以外の通常の通話であっても、例えば長時間の通話や遠隔地への通話によっても生じる。つまり、ダイヤルQ2利用にかかる通話も、その形態が契約約款の予定する通話と異ならないことは前記三・4に説示したとおりであり、ともに同じ料金体系によってその通話料金が算出されるから、仮にダイヤルQ2利用にかかる通話料金がこれまでになく高額になったとするならば、それは通常の通話による通話料金が高額になった場合と同様の理由によるといわねばならない。ダイヤルQ2利用にかかる通話料金が高額になるというのは、ダイヤルQ2の利用の仕方に直接の原因があるというべきである。

このように、ダイヤルQ2利用にかかる通話の形態とそれ以外の通話の形態がまったく同じものであるからには、ダイヤルQ2利用のために架電すれば、所定の通話料金の支払義務が発生することはなんぴとにも自明のことといってよい。加えるに、前記のダイヤルQ2利用の実際によれば、ダイヤルQ2利用のため架電すると、単位時間当たりの情報料と通話料金との合算額について音声による案内が流れるのであるから、その利用時間を抑制することも可能である。

このようにして、ダイヤルQ2利用にかかる通話料金が高額になることがあるといっても、それはそれに見合うだけの通話をしたからであって、これを回避することができない訳ではない。したがって、ダイヤルQ2利用にかかる通話料金が高額になるというのは、ダイヤルQ2に特有の事態ではなく、また特有の欠陥であるとまではいい難い。

3 また、右2のとおり、ダイヤルQ2利用方法が簡便かつ容易であるうえ、提供される情報の多種多様性に鑑みると、これの利用者の増加とこれに伴う電話回線の需要増が見込まれる。これをいうならば、加入電話契約者がダイヤルQ2利用のため自らその加入電話で通話する機会が増えるだけでなく、加入電話契約者以外の者が同様に右の加入電話で通話する機会も増えるということであり、この意味で「無断」使用の契機が増えるといえそうである。

ところで、前記三・2に説示した契約約款一一八条の趣旨に鑑みると、加入電話契約者は、自己と一定の関係にある者がその加入電話で通話することによって発生した通話料金については、その通話先や目的、内容の如何を問わず、また当該通話についての個別的な承認の有無を問わず、自らが負担することを控訴人に承諾していると認めるべきである。もしも、通話先や目的、内容如何によって、また当該通話に対する個別的、具体的承認の有無によって、加入電話契約者が他の者の通話による通話料金を支払わないでよいとするならば、契約約款一一八条の趣旨は全く没却されてしまうからである。

これを本件について見ると、本件の事実経過から明らかなように、春夫は被控訴人の弟であり、被控訴人の本件加入電話の使用を承認されていた者であるから、右に説示した契約約款一一八条にいう加入電話契約者と一定の関係にある者であるといって差し支えない。そして、ダイヤルQ2利用にかかる通話の形態が契約約款一一八条の予定した通話であることは、既に説示したとおりである。

そうすると、被控訴人が春夫のダイヤルQ2の利用を承認していないからこれにかかる通話が「無断」使用であると主張して、この通話料金の支払を拒むことは難しいといわねばならない。

4 さらに、右2のとおり、ダイヤルQ2において提供される情報は多種多様であり、《証拠略》によれば、当初、この中にはいわゆるアダルト番組、パーティライン番組、ツーショット番組等の、その内容自体がわいせつか品位を欠くものであるほか、あるいは利用の仕方如何によっては犯罪を誘発するなどの好ましからざる事態を招きかねない類のものが多数存在していたこと、したがって、ダイヤルQ2において提供される情報についてとかくの批判があり、これを規制ないし抑制するとか、あるいはその情報の提供を受ける手順を工夫してこれを入手することを抑制するとか、さまざまな提言がされてきたことが認められる。

しかし、前記四・2に説示したように、控訴人と情報提供者との間に依存、協力関係があるといっても、控訴人が情報提供者を支配下においてこれを指揮監督しているものではなく、また一体となって一個の事業主体となっている訳でもなく、それぞれは法的にも経済的にも独立した主体であるというのである。そうすると、通信の自由あるいは表現の自由という憲法上の原則、さらには電気通信事業法三条(検閲の禁止)、四条(秘密の保護)、七条(利用の公平)、三四条(電気通信役務提供の義務)の趣旨に照らすとき、控訴人が情報の内容に介入するについては、相当程度に慎重であるべきことが要請されるから、情報の内容についての批判をすぐさま控訴人に対するものとしてしまうには問題があろう。

このようにして、仮に情報の有用性、公益性に問題があるとしても、それを控訴人の責任であると決めつけてしまう訳にもいかない。

5 しかし、そうはいっても、ダイヤルQ2は、その利用方法が簡便かつ容易であり、すぐさま多種多様な情報を入手し得る利便性をもったものであるから、この利便性ゆえに、ついつい利用の頻度やその時間が増すとともに加入電話契約者以外の者の利用の機会も増え、なかには濫用という事態が生じるであろうことは否定し難いし、現にそのような事態が生じたことが数多く報告されている。そして、控訴人は、ダイヤルQ2がこのような濫用の危険をはらんでいることをその創設当初から予測し得たともいうことができる。

そうだとすると、このような事態を回避するに、単に利用者の自制にまつのではなく、ダイヤルQ2制度の周知とともにこの制度の中に利用を適切に抑制できる装置ないし仕組みが用意されていることを求めることは、消費者保護の観点から無理な要求ではあるまい。しかるに、前記一・2のダイヤルQ2制度創設の経緯に照らすとき、控訴人が創設に当たってこれの公示、周知をじゅうぶんに行ったかというといささか疑問であり、その後控訴人が申込制を一部採用したり発信規制をしたりと、さまざまな改善策を講じたことからも窺われるように、控訴人は、濫用の抑制のための防備をじゅうぶんに固めないままに、ダイヤルQ2制度を創設、実施したと批判されても止むを得ない。

6 以上の説示に基づいて考える。なるほど、控訴人は右5のような批判を甘受すべきであろう。しかし、ダイヤルQ2利用にかかる通話は、契約約款にいう通話にほかならず、通話料金も認可料金であってこれによって控訴人が法外な収益を上げ得るものでもない。春夫のダイヤルQ2利用にかかる通話もまったく同様であり、その通話の形態そのものは、その通話の目的はともかく、被控訴人が春夫に許容した形態の通話であり、これによる通話料金も他の通話と同じ料金体系によって算出される。さらに、春夫自身、架電すると所定の通話料金の支払義務(前記三・3に説示したとおり、通話料金が「電話サービス」使用の対価であることに鑑みると、その第一次的負担者は春夫であるといってよいであろう。)が発生することは、ダイヤルQ2利用時の音声による案内をまつまでもなく、その年齢からして当然のこととして熟知していたものといえるから、ダイヤルQ2の利用の仕方如何によっては通話料金が高額化するということも予測できたはずである。そして、被控訴人が春夫のダイヤルQ2利用により発生した通話料金につきこれが「無断」使用であることを理由に支払を拒むことは、契約約款一一八条の趣旨に照らし難しいことも、前記3に説示したとおりである。そしてまた、控訴人と情報提供者との関係もこれまでに説示した域を出ないから、被控訴人が春夫のダイヤルQ2にかかる情報料の支払義務を負わないことを理由に通話料金の支払義務を負わないとすることもできない。

このように、かれこれ考えると、控訴人にも批判されるべき点(とりわけ、前記二・2及び四・3に説示したように、控訴人が、契約約款一六二条ないし一六四条の追加変更によって、ダイヤルQ2の実際の利用者が誰であっても、使用された当該加入電話の契約者が情報料の支払義務を負うことになるとの見解のもとに、ダイヤルQ2を創設、実施したことに、その後の混乱の発端があったということができる。)があるが、これまでの説示を総合すると、本件においては、春夫のダイヤルQ2利用にかかる通話料金の支払を、契約約款一一八条に基づき、被控訴人に請求することが信義に反するものとまではいい切れないというほかはない。

六  結論

1 本件の事実経過によれば、春夫のダイヤルQ2利用にかかる通話料金は、少なくとも別表三記載のとおりとなる。すなわち、平成二年一〇月分として六万二〇九〇円(分計分)、同年一一月分として五万八三九〇円(判明分)と一万一二九〇円(分計分)との合計額六万九六八〇円である。そして、これまでの検討の結果に照らすと、被控訴人は、控訴人に対し、右の各通話料金とこれらに対する消費税相当額並びに一〇月分のそれらに対しては約定の支払期日よりも後の日である同年一一月一三日から、一一月分のそれらに対しては約定の支払期日の翌日である同年一二月一一日から、それぞれ支払済みの前日に至るまで年一四・五パーセントの割合による約定損害金をも、それぞれ支払わねばならない。

したがって、春夫のダイヤルQ2利用にかかる通話料金について被控訴人がこの支払義務を負わないとする原判決は失当である。

2 よって、控訴人の本訴請求中、春夫のダイヤルQ2利用にかかる通話料金とこれの消費税相当額の支払を求める部分(なお、当審において右1の範囲まで請求の減縮がなされたことは、前記第二・一のとおりである。)を棄却した原判決は、右の減縮された範囲で取消されるべきであり、却って右の請求部分を認容すべきである。

そこで、原判決主文第一項及び第二項(更正決定により追加されたもの)を本判決主文第一項のとおり変更することとし、民訴法九六条、九〇条、八九条、一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 秋元隆男 裁判官 近藤敬夫 裁判官 川久保政徳)

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